「山忠本家酒造の利き酒」2005/5/22(第52回)

 山忠本家酒造には、名鉄の弥富線で名鉄名古屋駅から電車に揺られること30分日比野という駅で下車して徒歩で10分ちょっとくらい行くと、「雲井」と書かれた大きな山忠新家の向こう側に小さな山忠本家酒造が見えてきます。

 名古屋に行ってすぐにフランス在住の写真家で、友人の「ケイコ&マイカ」のお二人を義侠の蔵元にお連れしたので、蔵のこまごまとしたご報告は省きまして、今回は「利き酒」にスポットを当てたいと思います。

 私がこの時期に蔵元を訪れる時には、40%純米吟醸と30%純米吟醸の利き酒があるからです。50%750kg仕込の純米吟醸や50%1500kg仕込の純米は二月中に利き酒をしますので、今回の利き酒には含まれません。

 ですから、たかが40%の純米吟醸と30%の純米吟醸だけを利き比べたら良いんじゃないかと思われがちですが、これがとんでもないのです。

 なぜかと言いますと40%の純米吟醸だけでもタンク違いで5本あります。5本あればそのいずれもが違う味に出来上がっているのです。しかもその内の1本が特別栽培米というタンクでして、この特別栽培米というのは、極低農薬でしかも無肥料で三年以上経過した田んぼのみが、その言葉を使用することを許されたお米になります。

 ですから5本のタンクの内から自分のお店にとって最も良いお酒を選ばなくてはならないのです。これが実はとっても難しいことなのです。4本のタンクは価格が一緒ですからどれを選んでも同じような物なのですが、いつ販売するかとか熟成がすすんだ時にどのように変化するかなど考慮しながら仕入れなければなりません。当然特別栽培米のタンクはコストがかかっている分高くなります。

 通常当店では40%や30%のお酒は一年以上冷蔵庫で熟成させて販売します。しかし時には予想よりも早く売れてしまって、在庫がなくなった場合に仕入れる時は、早く飲めるお酒を選ばなければなりません。

 そんな時、間違って堅い(熟成の遅い)お酒を選んでしまったら、お客様においしい状態の義侠が提供できなくなるのです。ですからその年によって在庫数量を見ながら、どのお酒を仕入れるかを真剣に考えなくてはなりません。

 こういう理由で利き酒では、相当神経を使うことになります。当店では40%のお酒は、4本の内から1本だけを決めてそれ以外に特別栽培米の40%を仕入れます。通常の40%は生のままで仕入れますが、特別栽培米に関しては、生か火入れで良く迷います。ただこのお酒の本来持っている能力を発揮するには、かなり時間がかかると思うので、今のところ火入れにして貰って三年以上熟成させて販売していますが、冷蔵庫の温度が低いのか?もう少し熟成を待った方が良いような気がします。

 30%のお酒は、毎年通常の物と特別栽培米の2本があるのですが、昨年は山田錦の作柄が極端に悪かったので、一本しか仕込まなかったということです。それで今回は特別栽培米がありませんでした。ですから選択の余地はないのですが、その年のお酒の出来の善し悪しで仕入れる数量が変わってきます。今年のように米の作柄が悪い年は熟成させてもどのくらい良くなるかが未知数ですので、危険回避のために最低数量しか取りません。

 と、まぁこんな具合でお酒を仕入れをしますが、何年経っても本当にこれで正解だったのかと疑問に思うこともありますが、だいたいのところでは正しい方向に行ってるようです。その証拠は当店で販売している義侠がおいしいとお客様から評価されているからだと思います。

 次回は「松瀬酒造」です。