「黒木本店」2006/8/10(第63回)

 今年の4月3日に近いけど遠い「黒木本店」さんにお邪魔しました。近いけど遠いというのは、隣の県でありながら高速道路もなく、県庁所在地の大分市から宮崎市までは約4時間かかります。これは九州の中でも最も時間のかかる隣の県だと思います。

 そういうことですので、なかなか思い立ってすぐにという訳にはいきません。日帰り出来ないことはないのですが、かなりしんどいし、万が一事故でも起こしたら、それこそなんの為に蔵元さんまで行くのかその意義さえ問われます。

 それで今回は蔵にお邪魔するついでに、宮崎の友人に久しぶりに会うことになり、それも兼ねての旅行となりました。4月2日は日曜日でしたので、蔵にお邪魔するのは翌日にして、その日の夕方、友人と会う約束をして大分を出ました。おりしも満開の桜を楽しんでドライブすること4時間、途中で食事をしていったのですが、それでも尚時間が余ったので、宮崎市から少し離れた綾町にある雲海酒造の「酒仙の杜」に行ってみることにしました。

 以前から一度は行ってみたいと思っていたところですが・・もっと山の中にあるかと思いきや、ほとんど平坦な場所に巨大な建物が建っていて、広い駐車場には観光バスが何台も停まっていました。山の中の本格的な蒸留所をイメージしていたものですから、少し期待が大きすぎたのかも知れません。まぁ観光客相手の蔵のようですので、地ビール(有料)を飲んだり、焼酎を試飲したりと時間を潰すにはもってこいの所です。

 翌日、ホテルを出て「黒木本店」さんに向かいますが、宮崎市内からですと一ッ葉有料道路を通って40分くらいで到着します。まず角上工場長とお会いして近況などをお話しさせていただいていますと、まもなく黒木社長がお見えになり蔵の中を案内してくださいました。昨年隣の土地を買い取って尾鈴山蒸留所の瓶詰めラインと貯蔵倉庫を新設していました。これで万全ではないかと思えるほどの施設になっていました。

 その後「尾鈴山蒸留所」に案内していただきましたが、道路が昨年の台風で通行止めになったままでして、昔の峠越えの狭い道路を通らざるをえません。尾鈴山蒸留所はちょうど改修工事中で仕込等はやっていませんでしたが、将来像はしっかり見せていただきました。なんと今までのかめ仕込とかめ貯蔵を辞めて、すべて木樽による仕込と貯蔵に変更するための工事をしているところでした。黒木さんはそのために2年前から木樽による仕込と貯蔵の実験をしていたということでした。かめで貯蔵すると、どうしても特有のクセがついて良くないということで今回の変更に踏み切ったようです。

 それから、社長自ら携わっている農業法人「甦る大地の会」のほ場を見学させていただき、植え付け前のハウスの中で育てている「黄金千貫」と「ジョイホワイト」の苗を見せていただきましたが、その違いがほとんど分からず、葉の裏の葉脈が赤いのが黄金千貫だと教えてもらいました(確かそうだったと思います)。この会では、約35町歩もの原料芋の作付け面積があり、尾鈴山蒸留所使用分は100%、黒木本店使用分もかなりの割合で賄っているそうです。

 帰り際に堆肥工場を見学して、お昼に蕎麦をごちそうになりました。そのお店の裏手には桜が植えられていまして食事の最中に風が吹く度に桜吹雪となって散っていく様は、例えようもないほど綺麗な景色でした。その時に黒木社長が「さくら」の語源などを説明していただいたのですが、ちょっと「さくら博士」のようでした。

 今回も思ったことは、黒木社長の現状に満足することなく、あくまで品質を追求する姿は見習うべきものがたくさんあります。私も現状に満足することなく商売の本質を見つめ直さなければならないと痛切に感じ、実りの多い蔵元見学になりました。黒木社長をはじめ、皆様大変お世話になりました。